作務衣に御用心。

グルメ・料理漫画が好き、少年期に「美味しんぼ」に影響を受け、今でも折に触れ読み返す…という事はこれまでも書いたり話したりしてきたつもりだけど、ラズウェル細木先生の話はそんなにしてないんじゃないかと思う。

ラズウェル細木先生の代表作は「酒のほそ道」という作品で、風流な酒飲みを目指す主人公、岩間宗達が愉快な同僚・上司・友人・恋人候補(?)と共に様々な食事、お酒、シチュエーションを楽しむという漫画である。

「このあらいを作ったのは誰だあ!」

と怒号を飛ばす芸術家もいなければ

「ドライビールなんてビールじゃないよ!」

と狭量な事を宣(のたま)う主人公もいない、ものすごく平和な作品である。事件が起こったとしても、始発まで居座わっている居酒屋でうたた寝をしそうになっては店員さんに怒られるとか、帰りのバス代まで飲んじゃって歩いて帰るとか、その程度の深刻さである。ぬるい。そしてそのぬるさがとても心地よく、おそらくほとんどのエピソードを読んでいると思う。(コンビニとかで売っている再収録系のやつから買い始めたので、単行本はそんなに持っていないのです)

ラズウェル先生はその他創作居酒屋の店主と常連の交流(というか飲んでるところ)を描く「美味い話にゃ肴あり」や、先生自身がお寿司について語ったり握るのに挑戦したりするエッセイ漫画ともいうべき「ラ寿司開店!」(←これめっちゃ好き)などの作品があるが、かなりニッチに絞った連載も手がけている。

「う」という作品があって、これは徹頭徹尾うなぎ料理の話である。一日一回は鰻を食べなければ気のすまない主人公が、様々なお店でうなぎを食べる…というストーリー(というのか?)。そんなしばりで話が持つのかと心配になるけど、どっこいなんとこれまで4巻出ている。そして面白い。すごい。

もっとすごいのは「ぶぅ」という作品で、これはなんと豚肉料理がテーマの作品。鰻はまだ食材としてパンチがあるし、高価だし、うんちくも沢山あるわけだけど、まさか豚肉という日常オブ日常食で勝負するとは…。こちらはさすがに1巻で完結。でもなんか不思議と面白い。

先生の作品でたびたび出てくる所見に「店主が作務衣を着ているお店はハズレ」というのがある。ほとんど言いがかりみたいなものだけど、幾多のお店を経験しているであろう人の言葉だけに不思議と「なんかそうかもな」という気もしてくる。僕の狭い行動範囲ではなかなか作務衣店主に会わないんだけど、皆さんもし出くわしたらぜひ気をつけて見てみてください。