山田ジャパン「優秀病棟 素通り科」楽曲制作ノート

山田ジャパン「優秀病棟 素通り科」が、昨日8日間の公演を終え、千穐楽(って書くんですね。初めて知った)を迎えました。初日と千穐楽を配信で観劇しましたが、それぞれに感じる所があり(新鮮さも円熟味も好きなので)とても好きな作品になりました。ありふれた言葉だけど「涙と笑い」が、ありふれていない通路を通って届けられたような気持ちです。

主演の福田悠太さんに、ベテランゲストの森さん・与座さん、そしていつのまにか大所帯になった山田ジャパンの皆さんの、カンパニー全体が醸し出す空気がとても心地よくかつ誠実で、清々しい気持ちになりました。この状況下で開催されている意味も含め、そして一つの目標だった本多劇場進出とあさこさんの涙も含め、誠実という言葉がとてもあてはまる舞台だったと感じました。(そういえば下ネタがほぼなかったですね!実は先日勇気を出して、出演させてもらった舞台「盗聴少年」のDVDを初めて観たのですが、なかなかぐいぐいくるそっち系のネタに気圧されるものがありました笑 いや、誠実な下ネタというのも存在するとは思いますが)

さて、今回は久々に楽曲提供を新曲でさせてもらって、おかげさまでどちらも好きな曲が作れました。主宰能龍氏とのやりとりで曲が変化していくのも、とても楽しかった。我々ながら(我ながらという表現の複数形…はあるのか?)最小限の回数のやりとりで最大の効果が出せたのではと達成感があります。僕にとっては音楽だけで良いわけですが、能龍には舞台全体があるので、時間効率よく進むのはとても大事です。そういう意味でも能龍の的確な(且つかなり作曲者に気を遣ってもらった表現の)フィードバックで作れたのはとても楽しかったし、助かりました。

二曲あるうち、挿入曲「DOMINO」の方を後に作ったのですが、こちらは台本を読んだ時からなんとなくのイメージがあって、なお大転換でストーリーが進行するシーンではないので割と自由度が高いなと思っていました。ぼやっとしたイメージを主宰に伝えた時点で大枠は符号していたと思いますし、パッとうかんだフレーズを膨らませて、そのままバーっと作った感じです。(擬音が多いのは関西人の特徴です)やりたかったのは

・わちゃっとしたカオティックな感じ
・それを表現するためのセカンダリードミナント進行(というのがあるんですー)の多用
・あと16分のシンコペーションの多用
・音としてはブラスがあうかも

くらいの感じで、歌詞もお芝居の「原因を探す」というところをヒントにぱーっと書けて、ほぼ停滞なく幸せに出来ました。能龍からの感触もはじめからとても良く、オーダーのあったイントロの変更もスムーズに行き(これもFB(フィードバック)がわかりやすくて、コラボレーションしてるなーって感じでした)ほぼ苦労がなかったです。ちなみにセカンダリードミナントの多用っていうのはここ1,2年敬愛しているOfficial髭dismの影響がありまして「さとっちゃんみたいやん!!」とか一人盛り上がって作ってました笑。


エンディング曲、しがらみハンモックの方は先に取り掛かったのですが、こちらはがっつりとラストのお芝居の後ろで流れる曲なので、稽古中に流れているリファレンス曲とあまり雰囲気を変えない方がいいなと言う所から作りました。なので

・楽曲のテンポ
・リズムが跳ねていること
・歌入りやサビ入りのタイミングなどの尺関係

はリファレンス曲を踏襲することに。そうすれば、スケジュール的に本番直前に曲が変わる事になるわけですが、お芝居への影響は最小限にできる(はず)。

こう書くといかにも「お芝居の事を考えました!」って感じだけど、その本心を正直に言うと、稽古中に何度となく流れるリファレンス曲は演者さんにも愛着があると思うので、曲が変わって「本当は前の方が良かったな」とはできるだけ思われたくない(笑) なので具体的なやりにくさだけでも排除したかったのです。

あとはお芝居の後ろに流れる曲なので、歌詞の雰囲気も重要です。この場合の重要とは単体で良い歌詞をという事ではなくて「お芝居を邪魔せず、時々漏れ聞こえる歌詞が抽象的にシーンの底上げに繋げられる」ものでありたいという事。なのであまり強い言葉や、主張ある展開感はなしにして、送ってもらった稽古の映像をお風呂で見つつ、十分な半身浴とともに第一稿を作りました。

曲はリファレンス曲のメロディと比較しつつ、その効果を残しながら自分なりに作っていきました。そこまで元曲を意識しなくても良いじゃないかという話もありますが、逆にそうやって考える土台があると作りやすくもあります。もちろん単純に音符を並べ替えるみたいな事ではなくて、今回はサビ以外の部分にリファレンス曲にはない7度の音(気持ちいい所の半音下の音なのでちょっと不安定な印象)を多用して、揺れる気持ちみたいなのを足したつもりです。元曲は声にかなりワビサビ感があるのですが、僕の声だとそれは難しいのでメロディで補填した感じです。

オケはほぼリファレンスの雰囲気のままというデモを作って、能龍のFBをもらい、その時点で閃いたものがあったので、一から作り直そうかなとも思ったのですが、なんか積み上げたものを壊すのは良くないなと思い、元の楽曲で粘りました。
自分としてはあまり自然ではない作り方だったのですが、なんかこの「ちょっと無理してる感じ」というのが、お芝居の内容にも意図せず合ったと思い、結果とても気に入った曲になりました。今回のお芝居の個人的な感想は「人がそれぞれ、少しずつ無理をしながら生きていく話」というものだったので。

今回作らせてもらって、自分が面白いと感じたのは、2曲ともその曲の最初に作ったモチーフというか、もともとの核心みたいなものが完成形には残っていないという事です。ドミノは最初のモチーフはイントロ部分なので変えちゃったし、しがらみ…の方も歌詞を書き始めるきっかけだった最初の二行を変えました。

なんか交尾してメスに食われちゃうカマキリじゃないけど、曲が生まれるきっかけだけを残して、いなくなってしまう歌詞やモチーフってなんかいいなと。もっと若い頃だと「いや!この部分から作り始めたんだから絶対残さなくちゃ!」と思ったかもしれないんだけど、愛するものを殺してこその創作(と最近読んだ本に書いてあった)なんだなと、そんなやりかたが出来たのも嬉しい事でした。

お芝居の細かい感想はいくらでも言いたいんだけど、皆さんそれぞれの余韻があると思うので今日はこの辺で。ぜひ今回の曲はこれからもご愛顧ください。サブスクとかにもありまーす。