自分語り② CUTTはいったい何を歌いたかったのか

前回はデビューシングルになった楽曲「GOOD-BYE」までを振り返りました。この曲をメインに据えたデモテープを98年2月にレコード会社数社に送り、数日後「エクスタシーレコードの谷口さん」から電話を頂きます。大阪までライブを観に来て頂いたり、何度かのやりとりの後、「hideさんが気にいると思うから聴いてもらうね」との事。

幼い頃からの憧れであるX(エックス)のhideさんが聴いて、気に入ってもらえたというのは僕にとって、とてつもない喜びでした。特に95年頃からのhideさんはオルタナティブ的な音楽性に大きくシフトされていたので

「僕らのオルタナ的な要素が良かったに違いない!」

と勝手に思いこみ、有頂天でした。しかし実際にどうだったのかをご本人から伺う機会が訪れる前に、hideさんは他界されました。有頂天からの落下衝撃は、かなりのものだったでしょうが、現実感がないまま時間が進み環境が変わり、感情が空中に浮かんだような状態で日々を過ごしていたような記憶があります。

その頃と前後して作りはじめていたのが「ZERO and INFINITE」という、後に2ndシングルになる楽曲です。

「ゼロと無限の間で揺れながら夢をみて永遠の歌に憧れている」

という歌い出しは、おそらく「抽象の間にある具象の中でなお、抽象に憧れている」という事だと思いますが、せっかく「GOOD-BYE」で忌み嫌っていた変化を受け入れ「見知らぬ時の中へ」飛び出した割には、まだ結局「永遠に憧れ」ていますね。まあ「永遠不変じゃなければNG!」だった頃に比べれば「憧れ」にとどめているぶんだけマイルドになってはいます。

この曲は色んなバージョンを経て完成するのですが、確か最終的な完成の前に父が他界したと記憶しています。

立て続けの喪失は、とても大きな影響を僕に与えた筈です。しかし残念ながら、渦中にはなんらかの精神防衛機構が働くのか(そういう曲も後に書きましたが)その頃の自分の心情もあまり覚えていません。なので歌詞から類推するのですが、この楽曲の最後は「歩き出す僕が振り返るといつも微笑んで手を振る君がいる」と結ぶなど、自分の曲の中にも何かの救いみたいなものを求めていた気がします。

この「永遠に憧れつつも、変化を受け入れ、少しの救いがある」というのが、この頃のテーマのようです。この「救い」については「プロになったんだから無責任な事を言うたらあかんやろう」という当時の僕の(やや堅苦しい)指針でもあったようです。それと作品とを直結させるのは端的すぎる気もしますが、まあ健康的な考えであるとは言えそうです。

次のシングル「Forget, Forgive」では「いつの日か忘れてしまうのなら いっそ今すぐさよならをしよう」と歌いました。どうせ変化するなら今すぐしてしまえ!と、今度はだいぶ極端です。さんざん「変わりたくない!」と言っていたのに、反動というものは侮れないですねぇ。しかしその後の歌詞で一応救いのようなものは用意されていました。

その次の「P.F.P.」では

「"遠く離れていても何も変わらない"って祈るような台詞だけど それが嘘だっていいんだ」

と、いまだ永遠不変に憧れながらも、だいぶあきらめがよくなってきたようで、嘘でもいいらしいです。そして「君の優しさは受け取ったよ」と続くので、救いというか、少しの成長が(ようやく)伺えるような気もします。

ちなみに前回から自曲のテーマの変遷を割と新鮮に、なんなら驚きを持って見返していたのですが、実はこの曲の落ちサビで、ここまで振り返った事は全部言っていました。

「いつか止めたいと思った 凍らせたいと思った時の流れについても 今はわかった気がするよ」

わかってたんかーい!
そして

「過ぎ去っていく未来と 未だ来はしない過去 それはつまり現在ってことだろ」

と続きます。どうやら、永遠に憧れる代わりに「直線的で不可逆な時間軸上での考えをやめて、過去も未来も現在を取り囲むように存在する」という考えに変わったようです。これは後に傾倒することになる仏教的な教えにも近いように思います。(今はまた少し進んだ考えになりましたが、それをまた作品として発表できるのが楽しみです。ネタが尽きてなくて良かった…)

さてこの時期のアルバム収録曲にはその他、幼年期のノスタルジーを歌った「Salvation」や、ループする日常の鈍い空気を歌った「Floating」、コミュニケーションの限界を歌った「Words」が収録されるなど、ようやくテーマにもバラエティが出てきたようです。躁鬱的な内容の「Switch」も今改めて気に入ったりしています。ほぼこれまで「いまのぼくのおきもち!」しか歌ってなかった事を思うと、幅は広がったのではないかと思えます。

さて、今回はデビューから1stアルバムまでを振り返りました。顧みれば紆余曲折ありながらも、以前に比べると順当に成長しているように思えます、よね? 果たしてこのまま健やかに育ってくれるのでしょうか。

次回2ndアルバム編に続く!

4th single P.F.P.です。