自分語り① CUTTはいったい何を歌いたかったのか

私ごとですが、誕生日(3/17)が近づいて来ました。

44才になるのですが、この年齢は僕が初めて父の年齢を認識したのと同じ年齢で(つまり4,5才の時に、父の年齢を初めて知った事になります)そういう意味でも「本当に大人になるんだなあ」という実感が(いい歳して今更ですが)あります。キリの悪い数字だけど、実感を伴う節目とは個人的な思い入れの上にこそ成り立つのかもしれません。そういう契機を前にして、これまでの自作品を見返す事で棚卸し的に半生を自省するのも一興かと思い、少年のころ初めて発表した楽曲から、テーマの変遷を検証してみたいと思います。

高校を卒業する時に同級生に配ったデモテープに入ってる曲が、曲がりなりにも人前に出た最初の自作曲になります。タイトルは「モノローグ」というもので、独白、1人語りという意味ですが、奇しくもその後一定の時期の自分の作風を言い表しているようにも思います。歌詞の内容としては思春期の諦観というか、ニヒルぶっていて「真実と信じたものはただの本能だった」ので「あがく気力さえもない」と結びます。

思春期と言えば恋愛感情を抜きにしては語れませんが、その自分が、独自のものと思い込んでいる感情も、所詮種族の反映の為の仕組まれた本能に過ぎないじゃないか、何をやったってオリジナルな(というか崇高な、神聖な、と当時は思っていたでしょう)ものなどできないではないかと憤っておられます。

若者が抱く問題意識としてはありがちですが、自分ではまあ(本当に憤っていたので)上出来ではないかと思います。当時はプラトン、イデア論を知った頃で、やはりどこかに全ての原型というか、特別があって欲しいという気持ちが強くありましたし、自分がまさしくその「特別」なのだという意識も相当強く持っていました。(若かったもので…)

さて高校を卒業してバンド「shame」としての活動を本格的にスタートします。(ここからは読んでくださっている皆さんの中にはご存知の曲もあると思います)
当時の代表曲「Beautiful」は「どうして悲しみは薄れていくの?」という一文から書き始めて、徹底的に「変化」というものを憎みました。マイナス方向の変化だけでなく「悲しみが薄れる」「涙が枯れる」という(感情としては)プラス方向の変化も嫌だというのですから、まあ一応筋は通っています。

「美しい」ものは「不変」であると。(今思えば西洋っぽい考え方ですね)悲しんだのなら(それがほんとうなら)ずっと悲しんどけ!という事らしく、この時期の楽曲は基本的にそのテーマでまとまっています。しかし「Sadness」という曲では「だから親愛なる友よ、あなたはがんばって生きていってね(ゆるい和訳)と、「Snow」という曲では「あとはまかせたよ」などと言っているので「変化は不浄である」という考えを、さすがに他人にまで押し付けてはいなかったようです。それくらいの分別はかろうじてあったわけですね。

若者が変化を嫌うことは、モラトリアムとはまた違った意味でも、理解できる気がします。彼らにとっては出会うもの全てが初めてで、新鮮で、特別です。そんな「ぼくだけの特別なもの」が陳腐に落ちていくというのは、耐え難いものがあったのでしょう。(余談ですが、子供の頃クラシックギターの「足台」という存在が許しがたかったです。なにか、自分達の快適さの為に、足を置くだけの台を用意し、それが通例化している事に、言い知れない陳腐さと「面の皮の厚さ」みたいなものを感じていたみたいです。ナイーブですねえ…)

さて、そんな若者も数年経つとさすがに成長し、ライブ活動も動員が(ほんの少しだけ)増え、当時レギュラー出演させてもらっていたライブハウスBAHAMAの年越しオールナイトイベントに出られることになりました。そのライブで初めて、ライブをやって「楽しい!」と思うことができ、その事がよほど衝撃だったのでしょう、帰りに「どうしようもなく楽しくて〜」という歌い出しではじまる「GOOD-BYE」という曲を作りました。この楽曲が後にhideさんの耳に(幸いにも)届き、shameのデビュー曲になりました。

この曲では途中「眠ることに夢中で、やすらぎの闇へ」という歌詞のあとテンポが遅くなっていきます。遅くなったテンポで静かな演奏の中「その小さな響きは 慎ましく穏やかに 無意識の渦の中で 確かに音を立てて」と歌ったら曲が一度止まります。

そしてハイハットのカウントと共に「今 僕は目を開けて 見知らぬ時の中へ」と、バンドもろともエネルギッシュに再開します。ここに於いて、ようやく長いこと忌み嫌っていた「変化」を受け入れ「見知らぬ時の中へ」飛び込む決心が出来たようです。ものすごく格好良く言えば、精神的な死を経て、それでも動く心音に突き動かされ、時を前に進める覚悟をしたというシーンですね。

ここから続く歌詞はそういう文脈でみると、なかなか感動的ではないかと自画自賛しますので、良かったら聴いてみてもらえると嬉しいです。(実はこれも今振り返ってみて、自分でもそういう意味だったのかと初めて納得したような次第で、やはり棚卸し的な自省は無意義ではなさそうです)

さて、この楽曲がきっかけで幼い頃から目標としていた「ミュージシャン」になる夢が叶った事になります。(ありがたいことです) 大学に進学しなかった僕は、新卒の時期までにはなんとか職業にしたいと思っていたので、その目標も叶いました。さて、変化を憎み、そしてそれを受け入れたCUTT青年は、上京・デビューという目まぐるしい展開の中、いったい何を歌うのでしょうか。

次回に続く!

文中のデビュー曲 GOOD-BYEです。