Official髭男dism “Pretender” がメロディーで訴えたもう1つの世界線

前回の記事であらかた僕の受けた衝撃は書いたのですが、もう一つ!

サビの

♩でもーはなーれがたいーのさー♩

の所のメロディーって、違和感とは言わないまでも、それまでとちょっと景色が変わったように感じませんか?

↑ここです。それまでの2フレーズ(”ひとーはぼーくじゃないー“と”つらーいけどーいなめなーい”)と同じような音形なんだけど一段下がったメロディーになっているとこ。

「や、なーんも感じません!自然だす!」

と言う方は、すみません。おそらく世界線の移行(?)が済んでいる人です。僕はまだ旧来の世界線にいるので、ここは、おほー!と思いました。

なにがどうなっているかと言うと、ここだけいわゆるドレミファソラシド(実際は調が違うのでドレミファソラシドではないんだけど、音の関係性は同じなのでこれ以降ハ長調のキーでこう表記します)のシの音が半音下がって

シ♭の音が使われているんです。しかもドーシ♭ドーシ♭と二回も!

なぜそうなっているかと言うと、ちょっとここ専門的になるので読み飛ばしてもらっても良いのですが、サブドミナントのコード(ハ長調でF)に向かうトゥーファイヴ進行(おしゃれ〜)にする為、一時的にドミナント(ハ長調でG、ソシレ)がドミナントマイナー(ハ長調でGm、ソシ♭レ)のコードになっているんです。

ようするに、コード進行(バッキング演奏)の工夫によってメロディーの音階が変わっている。

普通はコード進行を工夫してドミナントマイナーを使っても、メロディーはバレないようにと言いますか、シ♭を避けるか、まあ踏んでも一瞬みたいな感じだと思うのですが、ここでは強調するようにしっかり二回も踏んでます。

ここがもう一つの、あるかもしれなかった地面だと言わんばかりに。

ちなみにこのシが半音下がってシ♭になっているメロディーの階段の名前をミクソリディアンスケールといいます。(通常のドレミファソラシドの階段はイオニアンといいます)

僕はこのミクソリディアンスケールが大好きなんですが、個人的な好みはさておき、このドから7音上のシがシ♭になると言うのは、実は

割と自然な話なのです。

と言うのも、スケールの成立には自然倍音列(ある音を鳴らすと自然に同時に鳴る音、ピアノの低い鍵盤を鳴らすと聴き取りやすい)と深い関係があり、ドにとってシが倍音として現れるのは15番目とかなり後なのに対して、シ♭はより早く7番目に現れるのです!

つまり本来ドと相性がより良いのはシではなくて、シ♭の方なのです!

まあシはドと相性が悪いからこそ、
「ドからちょっとずれてて気持ち悪いよー緊張するよー早くドに行っちゃいたいよー」

からドに解決して

「良かったー!ドになってほっとしたー!気持ちいい!」

という西洋音楽の快感の基本が作られるわけですが、そうではなくてより自然な、

シ♭からドに解決するようなゆるやかな快感を主流とした世界線があっても良かったはずなんです。

そこがBメロで歌われる「もっと違う設定で、もっと違う関係で出会える世界線選べたら良かった」に引っかかっている感じがして、シがシ♭になっているもうひとつの世界線を垣間見ている感じがして、おほーと思ったのです。

そこに「選べれば良かった世界線」への希求がある!

しかし! ラストの「きみはーきーれいだー」ではやはりしっかりシ→ド と解決していて、現実を見せられると言うか、

やっぱりシに♭はついていなかったよ…という受け入れ、やるせなさみたいなものを感じられます。

すげー!

というまあ、過分に考え過ぎやこじつけもあると思いますが、そんな楽しみ方もできちゃうPretender!

やはりど名曲やで!